老人ホームの入居申込書には、たいてい「身元保証人」「身元引受人」の欄があります。子どもがいない、親族と疎遠、頼める人が高齢……そんなとき、「保証人がいないと施設に入れないのでは」と不安になる方は少なくありません。

結論からお伝えします。身元保証人がいないことを理由に、介護施設が入所を断ることは認められていません。これは厚生労働省が都道府県に対して明確に通知している内容です。この記事では、その根拠と、実際に保証人が用意できないときの現実的な選択肢、そして民間の身元保証サービスを使う際の注意点を解説します。

※本記事は2026年7月20日時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の契約や法的判断については、専門家(弁護士・司法書士等)や公的窓口にご相談ください。

そもそも「身元保証人」は何を求められているのか

施設が身元保証人に期待する役割は、主に次の4つです。法律で定められた統一の定義はなく、施設ごとに求める内容が違うのが実情です。

  • 緊急時の連絡先:急な体調悪化や事故のときに連絡がつく相手
  • 医療行為の判断への関与:本人が判断できない場合の相談相手(法的な同意権とは別の問題です)
  • 利用料の連帯保証:支払いが滞ったときの保証
  • 退所・死亡時の対応:身柄や荷物の引き取り、契約の終了手続き

逆に言えば、この4つを別の形で手当てできれば、「保証人がいない=入れない」にはならないということです。

【重要】保証人がいないことを理由に入所は断れない

厚生労働省は2018年(平成30年)8月30日付の通知で、各都道府県に対し、介護保険施設に関する法令上、身元保証人等を求める規定はなく、入所希望者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を拒否する「正当な理由」に該当しないという趣旨を示しています。あわせて、身元保証人がいないことのみを理由に入所を拒んだり退所を求めたりする不適切な取扱いがないよう、指導監督権限を持つ都道府県等が適切に指導するよう求めています。この通知は2025年7月にも一部改正され、相談対応の考え方が更新されています。

もし「保証人がいないので入所できません」と言われたら、次の対応を検討してください。

  • 施設に対し、厚生労働省の通知の存在を前提に、代替手段(後述)で対応できないか相談する
  • それでも取り合ってもらえない場合は、市区町村の介護保険担当課に相談する。介護保険施設の指導監督は行政の役割です
  • 地域包括支援センターに間に入ってもらう

ただし現実には、断られはしないものの「順番が後回しになる」といった形で入りにくくなることがある、という指摘もあります。だからこそ、こちらから代替案を示せる準備をしておくことが有効です。

保証人がいないときの5つの選択肢

1. 親族以外の身近な人に「連絡先」だけ引き受けてもらう

甥・姪、いとこ、長年の友人など、連帯保証まではできなくても緊急連絡先なら引き受けてくれる人がいないか検討します。施設に「連絡先の役割だけをお願いできる人がいる」と伝えると、話が進むことがあります。

2. 成年後見制度を利用する

判断能力が低下している場合の中心的な選択肢です。家庭裁判所が選任した後見人等が、財産管理や契約手続きを担います。ただし注意点があります。

  • 成年後見人は身元保証人にはなれません(利益相反等の理由から、後見人が保証人を兼ねることは想定されていません)
  • 医療行為への同意権も原則ありません
  • それでも、契約や支払いの管理が確実になるため、施設側の不安の大部分は解消されます

申立ての窓口や手続きは、地域包括支援センターや市区町村、法テラスで相談できます。制度の詳細は「介護保険・お金」カテゴリーで今後解説します。

3. 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)を使う

判断能力に不安はあるが後見制度までは必要ない、という段階では、社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業で福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理を支援してもらえます。費用も比較的低額です。

4. 保証人不要の施設を探す

近年は身元保証人不要を明示する施設や、成年後見人の選任を条件に受け入れる施設が増えています。ケアマネジャー(探し方はこちら)や地域包括支援センターに「保証人を立てられない前提で探したい」と最初に伝えると、条件に合う施設を絞ってもらえます。見学時にも必ず確認しましょう。

5. 民間の身元保証サービスを利用する

費用を払って、身元保証・入退院の手続き支援・死後事務などを代行してもらうサービスです。有力な選択肢である一方、最も慎重さが必要な選択肢でもあります。次の章で詳しく説明します。

民間の身元保証サービスを使うときの注意点

この分野は公的な資格や許認可制度がなく、参入障壁が低いため、事業者の質に差があります。過去には、十分な説明のないまま高額な預託金を求められる、契約するつもりのなかったサービスが含まれていたといったトラブルが相次ぎ、消費者委員会が2017年に消費者保護を求める建議を出し、総務省行政評価局も2023年に調査結果を公表するなど、行政が繰り返し問題を指摘してきた経緯があります。

2024年に政府のガイドラインができた

こうした状況を受け、2024年6月、内閣官房を中心とする関係省庁が「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定しました。契約が長期にわたること、費用が前払いされること、判断能力の低下が懸念される高齢者が主な利用者であることから、一般的な契約よりも利用者保護の必要性が高いという考え方に立ったものです。

事業者を選ぶ際は、このガイドラインに沿った運営をしているかどうかが一つの判断材料になります。

契約前のチェックリスト

  • 料金の内訳が明確か:初期費用・月額・死後事務費用をそれぞれ書面で確認。総額でいくらかかるかを把握する
  • 預託金の管理方法:預けたお金がどう保全されるか(分別管理されているか、第三者のチェックがあるか)
  • 解約条件と返金規定:途中でやめたときにいくら戻るのか
  • 事業者が倒産した場合の扱い:預託金は戻るのか
  • 実際に何をしてくれるのか:契約書に明記されているか。「安心です」といった口頭の説明を鵜呑みにしない
  • 契約は必ず家族・第三者を交えて:本人だけで即決しない。判断に迷ったら消費者ホットライン「188」へ

公的な制度(成年後見・日常生活自立支援事業)で足りる部分がないかを先に検討し、民間サービスは足りない部分を補う形で使うのが安全な順序です。

病院への入院でも同じ問題が起きる

身元保証人の問題は、施設入所だけでなく入院時にも生じます。医療機関についても、身元保証人等がいないことのみを理由に必要な医療の提供を拒むことは適切でないという考え方が示されており、厚生労働省は身寄りのない方の入院や医療に関する意思決定を支援するための指針も整備しています。

入院時の実務については親が倒れたらすぐやること、退院時の調整は退院支援の使い方で解説しています。病院の医療ソーシャルワーカーは、この種の相談に慣れた専門職です。

よくある質問

Q. 子どもはいますが、遠方でとても対応できません。

A. 身元保証人は必ずしも「近くに住んでいること」が条件ではありません。緊急時にどう連絡し、どこまで対応できるかを施設と事前にすり合わせておけば、遠方でも引き受けられるケースは多くあります。実務的な役割分担は家族会議で決めておきましょう。

Q. 保証人を頼める人が高齢の配偶者しかいません。

A. 配偶者も高齢の場合、施設側が別の対応を求めることがあります。成年後見制度や保証人不要の施設探しを並行して進めるとともに、まずは地域包括支援センターに現状を相談してください。同じ悩みを抱える世帯は非常に多く、地域ごとの実情に合った提案をしてもらえます。

Q. 費用は払えるのに、保証人がいないだけで断られました。

A. 支払い能力があるなら、施設側の懸念は「緊急時の対応」と「亡くなった後の手続き」に絞られます。成年後見制度の利用予定や、死後事務を委任する準備があることを具体的に伝えると受け入れられることがあります。それでも難しい場合は、市区町村の介護保険担当課に相談してください。

まとめ:「いないから無理」ではなく「代わりの手当て」を用意する

身元保証人がいないことは、施設入所を諦める理由にはなりません。厚生労働省は、それだけを理由にサービス提供を拒むことは正当な理由に当たらないとしています。大切なのは、施設が心配している4つの役割(緊急連絡・判断の相談・支払い・退所時対応)を、成年後見制度や公的サービス、信頼できる事業者でどう手当てするかを示すことです。

一人で抱え込まず、まずは地域包括支援センターに相談してください。施設選びの全体像は老人ホームの種類一覧表をご覧ください。

参考にした主な資料