親の判断能力が低下し、預金が動かせなくなったとき——必ず出てくるのが成年後見制度です。

銀行からも「成年後見制度をご利用ください」と案内されます。ところが多くの家族が、そこで立ち止まります。

費用はいくらかかるのか。自分が後見人になれるのか。一度始めたら、やめられないのではないか。

この記事では、最高裁判所が公表している令和7年(2025年)の統計と、家庭裁判所が示す報酬のめやすをもとに、実際のところを整理します。

数字を見ると、よく言われている話と実態が違う部分も見えてきます。

※本記事は2026年8月時点の情報をもとにした一般的な解説です。個別の判断や手続きについては、家庭裁判所または弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。

そもそも、なぜ申し立てるのか

申立ての動機を見ると、この制度が何のために使われているかが一目で分かります。

申立ての動機 割合
預貯金等の管理・解約 93.4%
身上保護 74.2%
介護保険契約 45.7%
不動産の処分 36.3%
相続手続 25.6%
保険金受取 17.8%

9割以上が「預貯金等の管理・解約」です。(複数回答のため合計は100%を超えます)

つまり——お金が動かせなくなったから申し立てる。これがほぼすべてです。

前回の記事で見たとおり、全国銀行協会は「家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない」としています(親のお金の管理)。その行き止まりの先にあるのが、この制度だということが、数字からもはっきり分かります。

【誤解しやすい点】親族は後見人になれないのか

よく言われるのが「申し立てても、親族は後見人に選ばれない」という話です。統計を見てみます。

成年後見人等に選任された人 件数 割合
親族 7,014件 16.4%
親族以外 35,718件 83.6%
 うち司法書士 11,966件
 うち弁護士 8,903件
 うち社会福祉士 7,280件
 うち市民後見人 390件

たしかに親族は16.4%にとどまります。8割以上が専門職です。

ただし、同じ資料にもう一つの数字があります。

「親族が成年後見人等の候補者として各開始申立書に記載されている事件の割合は、約19.7%である」(最高裁判所事務総局家庭局)

つまり——そもそも親族を候補者として希望した申立てが、全体の約2割しかないということです。

希望が19.7%で、実際に選ばれたのが16.4%。「希望しても選ばれない」というより、「そもそも希望していないケースが8割」というのが実態に近いと言えます。

親族が後見人になる道が閉ざされているわけではありません。ただし選任するのは家庭裁判所であり、希望どおりになる保証はありません。

費用はいくらかかるのか

最も気になる部分です。専門職が後見人になった場合、報酬は本人の財産から支払われます。

「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができるものとされています(民法862条)」(東京家庭裁判所)

基本報酬のめやす

管理財産額 基本報酬(月額)
通常 2万円
1,000万円超〜5,000万円以下 3万円〜4万円
5,000万円超 5万円〜6万円

管理財産額とは「預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額」です。

月2万円なら年間24万円。介護が平均4年7か月続くことを踏まえると(介護費用は月いくら?)、100万円を超える負担になりえます。

付加報酬もある

特別な事情があった場合、基本報酬の50%の範囲内で報酬が加算されることがあります。不動産の売却など特別の行為をした場合にも、別途加算されることがあります。

親族が後見人の場合は

「親族の成年後見人等は、親族であることから申立てがないことが多いのですが、申立てがあった場合は、これを参考に事案に応じて減額されることがあります」(東京家庭裁判所)

報酬は自動的に発生するのではなく、後見人が申し立てて家庭裁判所が決めるものです。親族が後見人の場合、報酬を請求しないことが多いとされています。

後見監督人がつく場合

親族が後見人になった場合などに、監督する人が選任されることがあります。その報酬は管理財産額5,000万円以下で月額1万円〜2万円です。

手続きにかかる時間と鑑定

「時間がかかりそう」というイメージがありますが、統計は違う姿を示しています。

審理期間 割合
1か月以内 37.9%
2か月以内(累計) 約71.1%
4か月以内(累計) 約93.8%

7割が2か月以内に終わっています。

鑑定は3.4%しか実施されない

「鑑定費用が高い」という話もよく聞きますが——

「終局事件のうち、鑑定を実施したものは、全体の約3.4%であった」
「鑑定の費用については、5万円以下のものが全体の約43.7%を占めており、全体の約85.8%の事件において鑑定費用が10万円以下であった」(最高裁判所事務総局家庭局)

そもそも鑑定が行われるのは30件に1件程度です。行われた場合も、8割以上は10万円以下でした。

それでも知っておくべきこと

統計は制度の使いやすさを示す面もありますが、慎重に判断すべき点もあります。

  • 原則として途中でやめられない——本人の判断能力が回復しない限り、支援は継続します。「口座からお金を引き出したいときだけ」という使い方はできません
  • 専門職が選任されれば、報酬が継続的に発生する——年24万円が10年続けば240万円です
  • 後見人を家族が選べるわけではない——候補者を挙げることはできますが、決めるのは家庭裁判所です
  • 財産は本人のために使うことが原則——相続対策のための贈与や、家族のための支出は制限されます

全国銀行協会も、家族が制度利用をためらう理由として「月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感」を挙げています。

利用者は約26万人

「令和7年12月末日時点における、成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は合計で259,901人であり、対前年比約2.3%の増加となっている」(最高裁判所事務総局家庭局)

内訳は成年後見180,828人、保佐58,162人、補助18,078人、任意後見はわずか2,833人です。

任意後見の少なさが目を引きます。これは判断能力があるうちに自分で後見人を決めておく仕組みですが、ほとんど使われていません。多くの人が、判断能力が低下してから慌てて申し立てているということです。

使うべきか、使わずに済むか

判断のポイントを整理します。

状況 考え方
親がまだ元気 先に代理人の届出・任意後見を検討する。この段階なら選択肢が多い
判断能力が低下、預金が動かせない まず金融機関に相談。それでも解決しないなら申立てを検討
不動産を売る必要がある 回避が難しい。本人名義の不動産の処分には後見人が必要になる
施設入所で身元保証を求められた 後見人は身元保証人にはなれない(身元保証人がいないとき
日常的な金銭管理に不安がある程度 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業という選択肢もある

「後見人がつけば施設に入れる」わけではない点に注意してください。後見人は身元保証人にはなれず、医療同意権もありません。

よくある質問

どこに申し立てますか?

本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族などで、身寄りがない場合は市区町村長が申し立てることもあります。

後見・保佐・補助の違いは?

本人の判断能力の程度によって3つに分かれ、後見が最も重い類型です。令和7年の申立件数は後見開始29,233件、保佐開始9,743件、補助開始3,302件で、後見が大半を占めます。

ただし保佐(+6.4%)と補助(+9.1%)の伸び率のほうが高く、軽度の段階での利用が増えています。

親族が申し立てても、専門職がついたら費用は誰が払いますか?

本人の財産から支払われます。子が自腹で払うものではありません。

ただし本人の財産が減るということは、介護費用に使えるお金が減るということでもあります。

親が拒否している場合は?

本人に判断能力がある段階では、本人の意思が尊重されます。まずは代理人の届出など、本人が納得できる方法を検討してください親のお金の管理)。

介護保険の手続きにも必要ですか?

申立ての動機で「介護保険契約」が45.7%を占めています。契約行為が必要な場面で問題になることがあります。

ただし多くの家庭では後見人なしでケアマネジャーと契約しています。必ず必要というものではありません。

誰に相談すればよいですか?

家庭裁判所のほか、地域包括支援センター、社会福祉協議会、弁護士会・司法書士会の相談窓口があります。

窓口の全体像は 介護の相談はどこにする? をご覧ください。

まとめ

  • 申立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が93.4%。お金が動かせなくなって申し立てるのが実態
  • 後見人に選ばれるのは親族16.4%/親族以外83.6%
  • ただし親族を候補者として希望した申立ては約19.7%しかない。「希望しても選ばれない」とは限らない
  • 報酬のめやすは月額2万円(管理財産1,000万円超で3〜4万円、5,000万円超で5〜6万円)。本人の財産から支払う
  • 審理期間は2か月以内が約71%、4か月以内が約93.8%
  • 鑑定は約3.4%でしか実施されず、費用も約85.8%が10万円以下
  • 利用者は259,901人。うち任意後見はわずか2,833人
  • 原則として途中でやめられない。報酬は継続的に発生する

手続きそのものは、思われているほど長くも高くもありません。本当の負担は、始まったあとに続くところにあります。

だからこそ——親が元気なうちに、使わずに済む備えをしておくことが最善です。任意後見の利用者がわずか2,833人という数字は、その備えがほとんどされていないことを示しています。

参考にした主な資料

※統計は令和7年1月~12月のものです。報酬額のめやすは家庭裁判所ごとに公表されており、実際の額は事案ごとに家庭裁判所が決定します。制度は改正されることがあるため、手続きにあたっては家庭裁判所または専門家にご確認ください。