久しぶりに実家に帰って、親の歩き方が変わったと感じた。階段で手すりを使うようになった。以前より外出をしなくなった気がする——。

まだ介護というほどではない。でも何かが少しずつ変わっている。この「介護になる前」の時期こそ、家族にできることがいちばん多い時期です。この記事では、親の身体の変化にどう気づき、何から動けばいいのかを整理します。

結論を先にお伝えすると、要介護認定を受けていなくても使える公的なサービスがあります。多くの方がこれを知らないまま、状態が進んでから慌てて動くことになります。

なぜ「足腰」に注目するのか

加齢による衰えは全身で起きますが、生活が大きく変わるきっかけになるのは、たいてい足腰です。歩けなくなると、外出が減り、人と会わなくなり、食欲が落ち、さらに動けなくなる——という連鎖が起きます。

そして最も多い転機が転倒です。骨折して入院すると、入院中に筋力が落ち、退院時には転ぶ前とは別人のように動けなくなっていることがあります。1回の転倒が、介護生活の始まりになることは珍しくありません。

だからこそ、まだ元気なうちに「変化のサイン」に気づくことに意味があります。転倒そのものの対策は高齢者が家で転ぶ場所1位は「居室・寝室」で詳しく扱っています。

国が定めた「足腰の5つのチェック項目」

実は、親の状態を判断する公的なものさしがあります。厚生労働省が定める「基本チェックリスト」という全25項目の質問票で、そのうち運動器(足腰)に関する項目が次の5つです。

No. 質問項目
6 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか
7 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか
8 15分位続けて歩いていますか
9 この1年間に転んだことがありますか
10 転倒に対する不安は大きいですか

この5項目のうち3つ以上が当てはまる場合、公的な支援の対象になり得ます(後述の「事業対象者」)。

帰省したときの見方

本人に質問しなくても、様子を見れば分かることが多いのがこの5項目の利点です。

  • 階段——手すりを「習慣的に」使っているかどうかがポイントです。使える力があっても、いつも使っているなら変化のサインと考えます
  • 立ち上がり——椅子から立つとき、机や膝に手をついていないか
  • 歩行——15分は、だいたい1km前後の距離です。買い物に歩いて行けなくなっていないか
  • 転倒——「転んだ」と家族に言わない方は多いです。あざや、家具の配置が変わっていないかも手がかりになります
  • 不安——「最近あまり出かけない」の背景に、転ぶ怖さが隠れていることがあります

頭の変化(物忘れ)のサインについては親の物忘れが増えたと感じたらで解説しています。身体と頭は連動して変化するため、両方を見ておくと状況を正確につかめます。

要介護認定を受けなくても使えるサービスがある

ここがこの記事でいちばんお伝えしたい点です。

介護保険のサービスを使うには要介護認定が必要——多くの方がそう思っています。しかし「介護予防・日常生活支援総合事業」(総合事業)という仕組みでは、要介護認定を受けなくても、基本チェックリストの結果だけでサービスを利用できます

要介護認定 基本チェックリスト
手続き 申請 → 訪問調査 → 主治医意見書 → 審査会 窓口で質問に答える
期間 結果が出るまでおおむね1か月 その場で判定できる
対象 要支援・要介護と判定された人 65歳以上で基準に該当した人(事業対象者
使えるもの 介護保険サービス全般 訪問型・通所型サービス、住民主体の活動など

つまり「認定が下りるほどではないが、放っておくのは不安」という段階に、ちょうど当てはまる制度です。認定を待つ1か月の間に状態が進んでしまうケースを防ぐ意味もあります。

どこに相談するか

窓口は地域包括支援センターです。親が住む市区町村に必ず設置されており、相談は無料、家族だけで相談に行くこともできます。何を持って行く必要もありません。

「まだ介護が必要な状態ではないのに相談していいのか」と迷う方が多いのですが、この段階の相談こそが地域包括支援センターの本来の役割です。詳しくは地域包括支援センターとはをご覧ください。

なお、明らかに生活に支障が出ている場合は、総合事業ではなく要介護認定の申請を先に進めた方がよいこともあります。どちらが適切かも、窓口で相談できます。

家庭でできること

制度を使うほどではない段階でも、生活の中でできることがあります。

「動く用事」を減らさない

親を心配して家事を代わってあげたくなりますが、やってあげすぎると動く機会そのものが減ります。ゴミ出し、買い物、庭の手入れ——本人ができることは、時間がかかっても任せた方が結果的に足腰を守ります。手伝うなら「代わりにやる」より「一緒にやる」形が理想です。

外出する理由をつくる

運動そのものより、外に出る用事があるかどうかが生活の中では効きます。通いの場、趣味の集まり、近所づきあい——地域包括支援センターでは、こうした住民主体の活動を紹介してもらえることもあります。

転ぶ環境を減らす

意外なことに、高齢者が最も転ぶのは屋外ではなく住み慣れた自宅の居室・寝室です。段差だけでなく、電気コード、めくれたカーペット、暗い廊下が原因になります。介護保険には住宅改修の制度もあります。

本人が嫌がるときは

「まだ大丈夫」「年寄り扱いするな」——これは非常によくある反応です。本人にとっては、衰えを認めることそのものが怖いからです。

このとき効果が薄いのは、正論で説得することです。かわりに次のような方法があります。

  • 心配ではなく感謝の形で伝える——「転ばれると私が困る」より「元気でいてくれると助かる」
  • 介護の言葉を使わない——「介護予防教室」ではなく「体操の集まり」「健康チェック」として伝える
  • 第三者から言ってもらう——かかりつけ医や地域包括支援センターの職員の言葉なら、素直に聞ける方は多いです
  • 健康診断のついでにする——特別なことではなく、日常の延長として組み込む

より詳しい向き合い方は親が介護を嫌がるときで解説しています。

よくある質問

Q. 何歳から気にすればいいですか?

基本チェックリストの対象は65歳以上です。ただし年齢よりも、「以前と変わった」と感じたときが動きどきです。変化に気づけるのは、たまに会う家族だからこそという面もあります。

Q. 遠方に住んでいて様子が分かりません

帰省時の観察に加え、電話で「最近どこか出かけた?」と聞くだけでも変化はつかめます。外出の頻度は足腰の状態を反映しやすい指標です。離れて暮らす場合の見守り方は別記事で扱っています。

Q. 基本チェックリストは家でやってもいいですか?

目安として家庭で確認するのは有用ですが、正式な判定は市区町村の窓口や地域包括支援センターで行います。家庭での確認は「相談に行くかどうかの判断材料」と考えてください。

Q. サービスを使うとお金はかかりますか?

総合事業のサービスにも利用者負担はありますが、相談自体は無料です。費用は市区町村やサービス内容で異なるため、窓口で確認してください。

Q. 親が要介護になったら、この記事の内容は無意味になりますか?

いいえ。要介護状態になっても、それ以上進まないようにする(重度化予防)ことには大きな意味があります。介護が始まった後の進め方は介護の始め方をご覧ください。

まとめ

  • 生活が変わるきっかけは足腰から。特に1回の転倒が介護の始まりになりやすい
  • 公的なものさしがある——基本チェックリストの運動器5項目。3つ以上該当なら支援の対象になり得る
  • 要介護認定がなくても「総合事業」のサービスが使える。認定は約1か月かかるが、チェックリストならその場で判定できる
  • 相談先は地域包括支援センター。無料で、家族だけでも、まだ元気な段階でも相談してよい
  • 家庭ではやってあげすぎない・外出の理由をつくる・転ぶ環境を減らす
  • 本人が嫌がるときは、正論より「介護の言葉を使わない」伝え方

参考・出典