久しぶりに帰省したら、親が同じ話を何度もする。冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っている。几帳面だった親の部屋に、郵便物がたまっている――。「年のせいかな」と思いつつ、心のどこかで引っかかっている方は多いはずです。

この記事では、「様子を見ていい物忘れ」と「受診を考えたい物忘れ」の見分け方、家族だけでも相談できる窓口、本人が受診を嫌がるときの伝え方まで、「気になり始めた今」やるべきことを整理します。介護は入院などで突然始まるケースだけでなく、こうした小さな違和感から静かに始まるケースも多いのです。

※本記事は2026年7月20日時点の一般的な情報提供であり、医師による診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関や記事内で紹介する相談窓口にご相談ください。

「年のせいの物忘れ」と「受診を考えたい物忘れ」の違い

加齢によって誰でも物忘れは増えます。大切なのは、加齢による物忘れと、認知症が疑われる物忘れには質の違いがあるということです。よく使われる目安を表にまとめました。

加齢による物忘れ 認知症が疑われる物忘れ
忘れ方 体験の一部を忘れる
(夕食に何を食べたか思い出せない)
体験の全体を忘れる
(夕食を食べたこと自体を忘れる)
ヒントがあれば 思い出せることが多い 思い出せないことが多い
本人の自覚 忘れっぽさを自覚している 自覚が乏しく、取り繕うことがある
日常生活 大きな支障はない 約束・支払い・料理などに支障が出る
経過 ゆるやかで大きく進行しない 少しずつ進行していく

また、正常な状態と認知症の中間にあたるMCI(軽度認知障害)という段階もあります。物忘れは増えているが日常生活はおおむね自立している状態で、そのまま認知症に進む人もいれば、健常な状態に戻る人もいるとされています。だからこそ、この段階で気づけるかどうかが大きな分かれ目になります。

物忘れ以外の「気づきサイン」――帰省時チェックリスト

認知症のサインは、物忘れだけではありません。特に離れて暮らしていると会話だけでは気づきにくいため、帰省したときに次のポイントをさりげなく確認してみてください。

  • 冷蔵庫・台所:同じ食材が複数ある、賞味期限切れが増えた、料理の味付けが変わった・品数が減った
  • 郵便物・お金:未開封の郵便物や請求書がたまっている、公共料金の督促状がある、通帳に不自然な出金がある
  • 身の回り:部屋が以前より散らかっている、季節に合わない服装、身だしなみへの関心が薄れた
  • 性格・行動:怒りっぽくなった、疑い深くなった(「財布を盗られた」など)、趣味や近所付き合いをやめた
  • 会話:同じ話・同じ質問を短時間に繰り返す、日付や曜日があいまい、「あれ」「それ」が増えた

電話やビデオ通話でも、「同じ話の繰り返し」や「直近の出来事の記憶があいまい」といったサインは拾えます。当てはまる項目が複数あるなら、次のステップに進むタイミングです。

もう一つ見逃せないのが、お金まわりのトラブルです。判断力が低下し始めると、不要な健康食品の定期購入、リフォーム契約、電話での投資勧誘など、悪質商法や特殊詐欺の被害に遭いやすくなります。見慣れない商品や契約書類が家にあったら、頭ごなしに叱らず事実を確認し、必要なら消費者ホットライン「188(いやや)」や地域包括支援センターに相談してください。こうした被害は、本人が誰にも言えずに抱え込んでいるケースが少なくありません。

「様子見」より早めに動いたほうがいい3つの理由

「本人を傷つけたくないし、もう少し様子を見よう」と考えたくなるのが自然な心情です。しかし、早めに動くことには明確なメリットがあります。

  • 1. 「治せる別の病気」が隠れていることがある:慢性硬膜下血腫(頭を打った後に血がたまる)、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、薬の副作用、うつ状態などでも、認知症とよく似た症状が出ることがあります。これらは治療によって改善が期待できるものもあり、受診しなければ見つかりません
  • 2. 早い段階ほど治療の選択肢が広い:2023年以降、早期のアルツハイマー病(MCI〜軽度の段階)を対象とした新しい治療薬(レカネマブ、ドナネマブ)が国内で承認されています。これらは進行してからでは使えず、早期の診断が前提です(利用できる医療機関や条件は限られるため、詳細は専門医にご確認ください)
  • 3. 本人の意思を確認できるうちに準備ができる:お金の管理、今後の住まいの希望、介護保険の手続きなどは、本人が判断・意思表示できる段階で話し合えるかどうかで、その後の負担が大きく変わります

どこに相談・受診すればいい?

相談先は「本人を受診させる前提の窓口」と「家族だけで先に相談できる窓口」の2種類に分けて考えると迷いません。

受診するなら

  • かかりつけ医:まずは普段診てもらっている医師に相談を。日頃の状態を知っているうえ、必要に応じて専門医を紹介してくれます
  • もの忘れ外来・認知症外来:脳神経内科・精神科・老年内科などの医師が、加齢による物忘れか認知症の入り口かを検査で評価する専門外来です
  • 認知症疾患医療センター:都道府県・指定都市が指定する認知症専門の医療機関で、鑑別診断や医療相談を担っています

家族だけで先に相談するなら

本人に受診の話を切り出す前に、家族だけで相談できる公的窓口があります。これを知っているかどうかは大きな差になります。

  • 地域包括支援センター:親の住所地にある高齢者の総合相談窓口。「認知症かどうか分からない段階」の相談も無料で受け付けており、電話相談も可能です(センターの役割と相談の流れの詳細はこちら
  • 認知症初期集中支援チーム:医療・介護の専門職チームが、受診につながっていない人の自宅を訪問するなどして初期支援を行う仕組みで、市区町村に設置されています。本人が受診を拒否しているケースこそ相談する価値があります(窓口は地域包括支援センターや市区町村の高齢者担当課)

本人が受診を嫌がるときの伝え方

「病院に行こう」とストレートに言って素直に応じる親は多くありません。本人なりの不安やプライドがあるからです。角を立てずに受診につなげる工夫をいくつか紹介します。

  • 「認知症」という言葉を使わない:「年に一度の健康チェックだから」「血圧も気になるし一度診てもらおう」と、体の検査を入り口にする
  • かかりつけ医から勧めてもらう:家族の言うことは聞かなくても、医師の勧めなら受け入れる方は多いものです。事前に家族から医師に相談しておきましょう
  • 家族が先に相談する:もの忘れ外来には家族からの相談に応じてくれるところもあります。前述の地域包括支援センターへの相談も有効です
  • 無理強いしない:強引に連れて行くと本人の不信感が残り、その後の通院や介護サービス利用まで難しくなりがちです。一度断られても、時間を置いて別の入り口から

認知症と分かった後の日々の接し方については、「認知症・からだの変化」カテゴリーで今後詳しく解説していきます。

受診前にメモしておくと役立つこと

受診が決まったら、次の内容をメモにまとめておくと、短い診察時間でも的確に伝えられます。

  • いつ頃から、どんな場面で気になり始めたか(具体的なエピソード)
  • 症状の変化の経過(急に悪くなったのか、ゆっくりなのか)
  • 飲んでいる薬(お薬手帳)、これまでの病気、頭を打ったことの有無
  • 生活で困っていること(本人・家族それぞれ)

本人の前で話しにくい内容は、受付でメモを渡したり、事前に電話で伝えたりする方法もあります。

「介護の入り口」に立ったら――受診結果にかかわらずできること

診断の結果がどうであれ、生活に支障が出始めているなら、介護保険のサービスを検討する段階です。要介護認定は、体の衰えだけでなく認知症による生活への支障も対象です。認定を受ければ、デイサービスやホームヘルパーなどを1〜3割の自己負担で利用でき、本人の生活の維持と家族の負担軽減の両方につながります。

相談から認定申請、ケアマネジャー選びまでの全体の流れは、親の介護は何から始める?最初にやること5ステップ【全体ガイド】で解説しています。

よくある質問

Q. 遠距離で、普段の様子が分かりません。

A. 帰省時に前述のチェックリストを確認しつつ、日頃は電話・ビデオ通話の頻度を上げて変化を観察しましょう。親の近所の方や親戚に「何かあったら教えてほしい」と頼んでおくのも有効です。心配が続くなら、親の住所地の地域包括支援センターに電話で相談してください。家族からの相談として状況を伝えておくだけでも、見守りの目が増えます。

Q. MCI(軽度認知障害)と言われました。もう認知症になるのでしょうか。

A. MCIは「認知症になる一歩手前」とされますが、全員が認知症に進行するわけではなく、健常な状態に戻る人もいるとされています。医師の指示に沿って経過を見ながら、運動・食事・社会参加などの生活習慣を整えることが大切とされています。あわせて、お金や今後の希望について本人と話し合っておく好機でもあります。

Q. 車の運転はやめさせるべきですか。

A. 認知症と診断された場合、法律上、運転免許の取消しや停止の対象になります。また75歳以上の方は免許更新時に認知機能検査が義務付けられています。ただ、車が生活必需品の地域では本人の抵抗も大きいため、診断前の「心配な段階」から、医師や家族で移動手段の代替案(コミュニティバス、家族の送迎、宅配の活用など)を含めて話し合っておくことをおすすめします。個別の手続きは運転免許センターにご確認ください。

まとめ:違和感を覚えた「今」が動きどき

「体験の全体を忘れる」「生活に支障が出ている」「本人に自覚がない」――こうしたサインが見えたら、年のせいと片付けずに動き始めるタイミングです。本人を病院に連れて行くことだけがスタートではありません。家族だけで地域包括支援センターに相談する、かかりつけ医に根回しするなど、今日からできる小さな一歩があります。

早く気づけたことは、親御さんにとってもあなたにとっても、準備の時間が増えるということです。焦らず、しかし先延ばしにせず、最初の相談から始めてみてください。

参考にした主な資料