介護サービスの利用料が思ったより高い——そう感じている方に、まず知ってほしい制度があります。

1か月の自己負担が一定額を超えると、超えた分は戻ってきます。これが高額介護サービス費です。

ただし、ひとつだけ落とし穴があります。

申請しなければ、1円も戻りません。

制度としては存在しているのに、自分から手を挙げなければ受け取れない。介護保険の負担軽減制度は、ほとんどがこの「申請主義」です。

この記事では、いくらを超えたら戻るのか、何が対象外なのか、そして実際にどう申請するのかを整理します。

※本記事は2026年8月時点の制度情報をもとにした一般的な解説です。手続きの詳細や様式は市区町村によって異なります。必ずお住まいの市区町村にご確認ください。

いくらを超えたら戻ってくるのか

上限額は所得によって6段階に分かれています。

区分 対象となる方 上限額(月額)
第1段階 生活保護受給者等 15,000円(個人)
第2段階 市町村民税非課税で合計所得80.9万円以下 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
第3段階 市町村民税非課税(第1・2段階に該当しない) 24,600円(世帯)
第4段階① 課税所得380万円未満 44,400円(世帯)
第4段階② 課税所得380万円〜690万円未満 93,000円(世帯)
第4段階③ 課税所得690万円以上 140,100円(世帯)

多くの方が該当するのが第4段階①の44,400円です。年金収入が中心のご家庭であれば、市町村民税が非課税となり24,600円まで下がることもあります。

この上限を超えて支払った分が、あとから払い戻されます。

「世帯」の意味に注意

表を見ると、多くの区分が「世帯」となっています。これは重要な意味を持ちます。

住民基本台帳の世帯で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額」(横浜市)

つまり——

  • ひとりの上限ではなく、同じ世帯で介護サービスを使っている人全員の合計に対する上限
  • ご両親そろって介護サービスを利用している場合、2人分を合算して判定される
  • 合算されるぶん、上限に達しやすくなる

両親が2人とも利用していれば、1人ずつでは超えなくても、合わせれば超えるということが起こります。

【重要】対象にならない費用がある

ここを誤解すると「思ったより戻らない」ことになります。

介護予防・生活支援サービス事業の一部、施設サービスなどの食費・部屋代等、特定福祉用具購入、住宅改修の費用は高額介護サービス費の対象外となります」(横浜市)

高額介護サービス費
介護サービスの利用者負担(1〜3割) 対象
施設の食費・部屋代(居住費) 対象外
特定福祉用具の購入費 対象外
住宅改修の費用 対象外
介護予防・生活支援サービス事業の一部 対象外

特別養護老人ホームなどに入所している場合、月々の支払いの大きな部分を占めるのが食費と部屋代です。それがまるごと対象外なので、施設利用者にとっては期待したほど戻らないことがあります。

ただし、食費と部屋代には別の軽減制度が用意されています。

「負担限度額認定」と混同しない

名前が似ていて最も混乱しやすいのが、この2つの違いです。

高額介護サービス費 負担限度額認定
(特定入所者介護サービス費)
対象 介護サービスの利用者負担 施設の食費・居住費
受け取り方 あとから払い戻し その場で減額
条件 所得区分 市町村民税非課税+預貯金要件

この2つは別々に申請します。片方を申請したからもう片方も自動、ということはありません。負担限度額認定の詳細は 特別養護老人ホームの費用と入所条件 で解説しています。

申請の流れ

ここが本題です。実際にどう手続きするのか。

ステップ1:案内が届くのを待つ

意外に思われるかもしれませんが、多くの市区町村では該当者に案内が送られてきます。

「該当と思われる方には区役所からお送りします」(横浜市)

「申請が必要な方には、おおむねサービス利用月の2か月後以降にご案内をお送りしています」(名古屋市)

サービスを使った月から2か月ほど遅れて届くため、「介護が始まったのに何も来ない」と焦る必要はありません。

ただし、これは自治体の運用によります。数か月経っても案内がなく、明らかに上限を超えている場合は、市区町村の介護保険担当窓口に問い合わせてください。

ステップ2:申請は初回だけ

これが最も知られていない、そして最も助かる点です。

初回のみ申請いただければ、以後は限度額を超過した月ごとに、自動的に口座に振り込まれます」(名古屋市)

「2回目以降払い戻しに該当する場合には、原則、初回に申請した口座に振り込まれます。(自動償還)」(横浜市)

毎月申請書を出す必要はありません。一度手続きすれば、以降は該当する月に自動的に振り込まれます。

介護の手続きは煩雑なものが多いなかで、これは数少ない「一度やれば終わる」ものです。だからこそ、最初の1回を必ず済ませてください。

ステップ3:振込口座を確認しておく

申請時に振込先の口座を指定します。ここで考えておきたいのが、誰の口座にするかです。

介護費用親のお金から支払うのが原則です(介護が始まる前の家族会議)。払い戻しも本人の口座で受けるのが、あとから見て分かりやすくなります。

立て替えている場合は、誰がいくら払い、いくら戻ったかを記録に残してください。きょうだい間でお金の話がこじれる原因の多くは、この記録がないことです(兄弟姉妹の介護分担)。

どのくらい戻るのか

要介護3で在宅サービスを利用し、1割負担で月27,000円を支払っているケースを考えます。

この場合、上限44,400円を超えていないため払い戻しはありません。

では、どんなときに超えるのか。

  • 2割・3割負担の方——同じサービス量でも自己負担は2倍・3倍になります
  • ご夫婦で利用している場合——世帯合算で上限に届きやすくなります
  • 限度額いっぱいまで使っている場合——要介護4・5で在宅を支えているケース
  • 施設に入所している場合——ただし食費・部屋代は対象外

ご自身の負担割合は「介護保険負担割合証」で確認できます。区分ごとの限度額は 要介護認定の区分早わかり表 にまとめています。

よくある質問

申請しないとどうなりますか?

払い戻しは受けられません。制度に該当していても、自動的に支給されることはありません(初回申請後の自動償還を除く)。

また、さかのぼって請求できる期間には限りがあります。案内が届いたら、後回しにせず手続きしてください。

どこに申請しますか?

お住まいの市区町村の介護保険担当窓口です。政令市では区役所が窓口になります。

何から相談すればよいか分からないときは、地域包括支援センターでも案内してもらえます。

ケアマネジャーが手続きしてくれますか?

申請そのものはご本人または家族が行います。ただしケアマネジャーは制度に詳しく、「うちは対象になりますか」と聞けば状況を踏まえて教えてくれます。

遠慮なく相談してください。ケアマネジャーとは?探し方・選び方 もあわせてご覧ください。

医療費と合算できませんか?

介護と医療の自己負担を年間で合算する「高額医療・高額介護合算療養費制度」という別の制度があります。

1年間(8月〜翌年7月)の合計が上限を超えた場合に払い戻される仕組みで、これも申請が必要です。介護保険全体の負担軽減制度は 介護保険の仕組み で整理しています。

親と別世帯にしたほうが有利ですか?

世帯の分け方によって区分が変わることはありますが、国民健康保険料や他の制度にも影響します。一部だけを見て判断すると、かえって負担が増えることがあります。

市区町村の窓口で、総額でどうなるかを確認してから判断してください。

施設に入っていても対象ですか?

介護サービスの利用者負担は対象です。ただし食費・部屋代は対象外のため、月額全体から見ると戻る割合は小さくなります。

施設費用の全体像は 老人ホームの費用相場まとめ をご覧ください。

まとめ

  • 1か月の自己負担が上限を超えた分は払い戻される
  • 多くの方の上限は44,400円(世帯)。市町村民税非課税なら24,600円
  • 「世帯」は住民基本台帳の世帯。利用者全員の負担を合算して判定する
  • 食費・部屋代・特定福祉用具の購入・住宅改修は対象外
  • 食費と部屋代には負担限度額認定という別制度がある。混同しない
  • 該当者にはサービス利用月の2か月後以降に案内が届く(自治体による)
  • 申請は初回のみ。以後は自動的に振り込まれる

介護のお金の制度は、ほとんどが申請主義です。知らなければ使えず、知っていても手を挙げなければ受け取れません。

ただしこの制度に関しては、最初の1回だけ手続きすれば、あとは自動です。案内が届いたら、その日のうちに書き込んでしまってください。

参考にした主な資料

※上限額は制度改正により変更されることがあります。申請の様式・窓口・案内の時期は市区町村ごとに異なるため、実際の手続きにあたっては必ずお住まいの市区町村にご確認ください。