介護保険の住宅改修|対象工事・20万円の使い方・申請の流れを解説
「玄関の上がり框(かまち)でつまずくようになった」「浴室で立ち座りがつらそう」「トイレに手すりがあれば安心なのに」——加齢や要介護で体の動きが変わると、住み慣れた自宅そのものが転倒の危険な場所になります。そうした住まいの不便を工事で解消できるのが、介護保険の住宅改修です。
この制度は上限20万円まで、原則1〜3割の自己負担で使えますが、「対象になる工事は?」「申請の流れは?」「一度使うともう使えないの?」と分かりにくい点も多いもの。この記事では、対象になる6種類の工事・20万円の使い方・申請の流れ・もう一度使える条件(リセット)を、家族目線でわかりやすく整理します。在宅介護で使えるサービス全体は在宅介護とは?使える6つのサービスと限界の見極め方をご覧ください。
※本記事は2026年8月時点の制度情報に基づく一般的な解説です。取り扱いは市区町村によって異なる場合があります。実際の利用は担当ケアマネジャー・市区町村の窓口にご確認ください。
介護保険の住宅改修とは
住宅改修は、要支援・要介護の認定を受けた方が自宅で安全に暮らせるように工事を行う際、費用の一部を介護保険がまかなってくれる制度です。要支援1・2の方でも利用できるのが特徴で、転倒予防や自立した生活の維持を目的としています。
ポイントは次の3つです。
- 支給限度基準額は20万円:このうち自己負担1〜3割を除いた分(1割負担なら18万円分)が支給される
- 工事の前に申請が必要:着工してから・工事が終わってからでは原則支給されない
- 複数回に分けて使える:20万円の枠は一度に使い切らなくてもよく、必要になるたびに使える
対象になる6種類の工事
介護保険の住宅改修で対象になるのは、次の6種類の工事です。
| 工事の種類 | 具体例 |
|---|---|
| ①手すりの取付け | 廊下・トイレ・浴室・玄関・階段への手すり設置 |
| ②段差の解消 | 敷居を低くする、スロープの設置、浴室の床のかさ上げなど |
| ③床材の変更 | 滑りにくい床材への変更、畳を板張りにするなど(移動しやすくする目的) |
| ④扉の取替え | 開き戸を引き戸・折れ戸に変更、ドアノブの変更など |
| ⑤便器の取替え | 和式便器を洋式便器に取り替えるなど |
| ⑥付帯して必要な工事 | ①〜⑤に伴って必要になる下地補強や給排水工事など |
逆に、介護に直接関係のない工事(新築・増築、老朽化の修繕、和式から洋式への浴槽交換のうち介護目的でないものなど)は対象外です。手すりを「工事なしで置くだけ」のものや、取り外しできる段差解消のスロープなどは、住宅改修ではなく福祉用具の扱いになります。用具か工事かの線引きは、介護用品・サービスの選び方もあわせてご覧ください。
20万円の使い方と自己負担
支給限度基準額の20万円は、一度に使い切る必要はありません。たとえば「今回はトイレと廊下の手すりで8万円、半年後に浴室の段差解消で7万円」というように、必要になるたびに残りの枠を使えます。合計が20万円に達するまで、何回かに分けて利用できます。
自己負担は所得に応じて1〜3割です。1割負担の方なら、20万円の工事に対して自己負担は2万円、残り18万円が介護保険から支給されるイメージです。20万円を超えた分は、全額自己負担になります。
なお支払い方法は、いったん工事費の全額を業者に支払い、あとから保険給付分(9割など)が戻ってくる「償還払い」が原則です。市区町村によっては、最初から自己負担分だけを支払えばよい「受領委任払い」に対応しているところもあります。どちらになるかは市区町村に確認しましょう。
申請の流れ
住宅改修でいちばん大切なのは、必ず「工事の前」に申請することです。事後の申請は原則認められず、全額自己負担になってしまいます。流れは次のとおりです。
- ケアマネジャーに相談:どこをどう改修したいかを相談する。ケアマネジャーが必要性を確認し、住宅改修が必要な理由書を作成する(ケアマネジャーの探し方)
- 施工業者から見積もりを取る:改修内容と費用の見積書を作成してもらう
- 事前申請:申請書・理由書・見積書・改修前の写真や図面などを市区町村に提出し、承認を受ける
- 着工・完成:承認後に工事を行い、費用を支払う
- 事後申請(支給申請):領収書・改修後の写真・工事内訳書などを提出し、保険給付分の支給を受ける
書類が多く感じますが、理由書はケアマネジャー、見積書や図面は施工業者が用意してくれます。家族がすべて自分で作る必要はないので、まずはケアマネジャーに相談することから始めましょう。
よくある改修例と費用の目安
実際にどのくらいの工事ができるのか、代表的な例を挙げます(金額は目安で、住宅の状況や地域により変わります)。
- トイレ・廊下への手すり設置:数万円程度。転倒の多い場所から優先的に付けるのが定番
- 玄関の上がり框・室内の段差解消:スロープの設置や敷居の撤去で数万円〜10万円前後
- 浴室の改修:滑りにくい床材への変更、浴室内の手すり、出入り口の段差解消などで10万円前後になることも
- 和式トイレから洋式トイレへの取替え:便器交換と付帯工事で十数万円かかる場合がある
限られた20万円を有効に使うには、本人がいちばん困っている場所・転倒の危険が高い場所から優先するのがコツです。将来の状態変化も見据えて、ケアマネジャーや施工業者と相談しながら計画を立てましょう。
もう一度20万円を使える「リセット」の条件
20万円を使い切ると、原則としてそれ以上は支給されません。ただし、次の場合は再び20万円の枠が新たに使えます(リセット)。
- 要介護状態区分が3段階以上上がったとき(3段階リセット):たとえば要支援2から要介護3へなど、介護の必要度が著しく高まった場合、一度だけ再度20万円まで利用できます
- 転居したとき:引っ越して別の住宅に住むようになった場合、新しい住まいで改めて20万円の枠を使えます
「以前の家で使い切ったから、施設や新居では使えない」ということはありません。状況が変わったら、リセットの対象にならないかケアマネジャーに確認しましょう。要介護度の区分については要介護度とは?区分と使えるサービスの違いもご覧ください。
よくある質問
Q. 賃貸住宅でも住宅改修は使えますか?
A. 使えますが、工事には住宅の所有者(大家・管理会社)の承諾が必要です。原状回復が求められる場合もあるため、事前に相談してください。取り外しできる福祉用具のレンタルで代替できることもあります。
Q. 工事はどこの業者に頼めばいいですか?
A. 特定の指定業者に限られてはいませんが、介護保険の住宅改修に慣れた業者だと申請書類の準備がスムーズです。ケアマネジャーや地域包括支援センターに、実績のある業者を紹介してもらうと安心です。
Q. 退院に合わせて改修したいのですが間に合いますか?
A. 事前申請から承認まで日数がかかるため、退院日が決まったら早めに動くことが大切です。退院前から準備を進められるよう、入院中に病院の相談員やケアマネジャーに相談しておきましょう(退院後の生活の準備)。
まとめ:使う前に必ずケアマネジャーへ相談を
介護保険の住宅改修は、手すりの取付け・段差の解消・床材の変更・扉の取替え・便器の取替え・付帯工事の6種類を対象に、上限20万円(自己負担1〜3割)まで利用できる制度です。要支援でも使え、20万円は複数回に分けて使えます。要介護度が3段階以上上がったときや転居したときは、再び20万円が使える「リセット」の対象になります。
最大の注意点は、必ず工事の前に申請すること。事後申請は認められません。まずは担当ケアマネジャーに相談し、理由書や見積もりを整えてから進めましょう。在宅介護の全体像は在宅介護とは?使える6つのサービスと限界の見極め方、福祉用具の選び方は介護用品・サービスの選び方もあわせてご覧ください。