認知症の親への接し方|やってはいけない対応と言い換え例
認知症の親と接していると、こんな場面に出会います。
さっき言ったことをまた聞かれる。財布がないと言われる。病院に行こうと言っても頑なに拒む。そして——つい、強い言葉が出てしまう。
そのあとで自己嫌悪に陥る。この繰り返しに疲れている方は、少なくないはずです。
ここでひとつ、前提を変える情報があります。
「認知症の症状に、最初に気づくのは本人です」
「認知症の人は何もわからないのではなく、誰よりも一番心配なのも、苦しいのも、悲しいのも本人です」(厚生労働省)
「本人には自覚がない」というのは、大きな間違いだと厚生労働省は明言しています。
この記事では、公的機関が示す接し方の基本と、家族が実際に困る場面での考え方を整理します。
※本記事は一般的な情報の整理であり、診断・治療の代わりになるものではありません。症状や対応にお困りの場合は、主治医や専門機関にご相談ください。
「私は忘れていない」と言い張るのはなぜか
家族が最も困る場面のひとつが、本人が認知症を認めないことです。受診を勧めても拒否される。もの忘れを指摘すると怒る。
厚生労働省は、この行動の意味をこう説明しています。
「『私は忘れてなんかいない!!』という主張は、私が認知症だなんて!!というやり場のない怒りや悲しみや不安から、自分の心を守るための自衛反応なのです」(厚生労働省)
否認は、頑固さではありません。自分を守るための反応です。
不自然なほど目をつぶるのは、それだけ怖いからだ——そう考えると、対応が変わってきます。正面から「認知症かもしれない」と突きつけることが、いかに残酷かも見えてきます。
受診をどう切り出すかは 親の物忘れが増えたと感じたら で扱っています。
接し方の7つのポイント
国立長寿医療研究センターが示している内容を整理します。
1. わかりやすく、具体的に伝える
「『あれ』『それ』などの曖昧な言葉は避け、短く・はっきり・具体的に話すようにしましょう」(国立長寿医療研究センター)
身振りや手振りを加えると、さらに伝わりやすくなります。
2. 相手のペースに合わせる
「焦らせたり、答えを急かしたりすると、不安や混乱を招いてしまいます」
「ゆっくりとした話し方を心がけましょう。穏やかに目を見て話しかけることで、相手も落ち着いて対応しやすくなります」(国立長寿医療研究センター)
忙しい朝、出かける前——急かしてしまう場面ほど、混乱が起きやすくなります。
3. 失敗や間違いを責めない
「忘れてしまったことを責めたり、無理に覚えることを求めたりせずに」
「『大丈夫だよ』『一緒にやろう』とさりげなく手助けすることによって」安心感が生まれます(国立長寿医療研究センター)
4. その人らしさを大切にする
「これまでの暮らしや経験(趣味、仕事、家族との思い出など)」を会話に取り入れます。
できないことが増えていくなかで、できていた頃の話は本人の自信につながります。
5. 自尊心を守る
「『また忘れたの?』『さっき言ったでしょ』といった言葉は、知らず知らずのうちにご本人の心を傷つけてしまう」(国立長寿医療研究センター)
この2つは、家族がいちばん言ってしまう言葉です。
6. 感情は伝わる
「笑顔、優しい声かけ、手を握るといったスキンシップは、感情を伝える大切な手段になります」(国立長寿医療研究センター)
言葉の内容が伝わりにくくなっても、感情は伝わります。これは逆も同じで、いらだちも伝わります。
7. まずは自分を大切にする
介護者は「『がんばりすぎない』『抱え込まない』『弱音を吐いてもいい』『比べない』ことが必要」(国立長寿医療研究センター)
接し方の7つ目に、介護者自身のことが入っている——ここは見落とさないでください。余裕がなければ、1〜6は実行できません(介護疲れ・介護うつを防ぐには)。
言い換えの具体例
ポイントを、実際の場面に当てはめてみます。
| つい言ってしまう | 言い換え |
|---|---|
| また忘れたの? | もう一度言うね |
| さっき言ったでしょ | そうだったね、○○だよ |
| 早くして | ゆっくりで大丈夫 |
| 違うでしょ | そう思ったんだね |
| あれ持ってきて | 台所のコップを持ってきて |
| ひとりでできる? | 一緒にやろう |
| 何回言えばわかるの | (何も言わず、そっと手伝う) |
すべてを実践できなくてかまいません。ひとつでも変えられれば、返ってくる反応が変わります。
「杖」を使えないということ
厚生労働省の説明のなかで、特に理解を助けるのがこの比喩です。
「足の不自由な人は、杖や車いすなどの道具を使って自分の力で動こうとします」
「しかし、認知症の人は自分の障害を補う『杖』の使い方を覚えることができません。『杖』のつもりでメモを書いてもうまく思い出せず、なんのことかわからなくなります」(厚生労働省)
「メモしておいて」が通じない理由が、ここにあります。メモを書くこと自体を忘れる、書いたことを忘れる、書いてある内容の意味が分からなくなる。
だから、こう続きます。
「認知症の人への援助には障害を理解し、さりげなく援助できる『人間杖』が必要です」(厚生労働省)
本人に工夫を求めるのではなく、周囲が支えになる。これが接し方の根本にある考え方です。
「認知症の人」という見方をやめる
厚生労働省は、かかわる人の心がまえとしてこう述べています。
「『認知症の人』がいるのではなく、私の友達のAさんが認知症という病気になっただけです」
「認知症の障害を補いながら、今までどおり友達のAさんと付き合い続けることです」
「さりげなく、自然に、それが一番の援助です」(厚生労働省)
親についても同じです。「認知症の親」になったのではなく、親が認知症という病気になった——順番が違います。
そして「健康な人の心情がさまざまであると同じように認知症の人の心情もさまざまです」とも書かれています。マニュアルどおりにいかないのは、当然のことです。
それでもうまくいかないとき
接し方を知っていても、実際にはできない日があります。それは能力の問題ではなく、余裕の問題です。
24時間ひとりで向き合っていれば、誰でも限界がきます。距離を取れる時間をつくることが、結果的に接し方を改善します。
- デイサービス——日中に離れる時間ができる
- ショートステイ——数日単位で休息が取れる
- 認知症カフェ・家族の会——同じ状況の人と話せる
- 地域包括支援センター——対応に困ったときの相談先
接し方を変えられないのは、休めていないからかもしれません。
よくある質問
財布を盗られたと言われます
大切なものが見つからない不安が、身近な人への疑いとして表れることがあります。否定しても解決しにくく、かえって関係が悪くなることがあります。
「一緒に探そう」と声をかけ、本人が見つけられるようにすると収まる場合があります。頻繁に起きる、対応が難しいという場合は、主治医やケアマネジャーに相談してください。
同じ話を何度もされます
本人にとっては毎回が初めてです。「さっき聞いた」と言われることは、本人にとって理由の分からない否定になります。
毎回きちんと答えるのが理想ですが、それが難しい日があって当然です。相槌だけでも会話は成立します。
事実と違うことを言われたら、訂正すべきですか?
訂正が本人の混乱や不安を強めることがあります。一方で、安全に関わることは伝える必要があります。
「何を優先するか」で判断が変わるため、日常的に対応に迷う場合は、担当のケアマネジャーや主治医に具体的な場面を伝えて相談してください。
怒りっぽくなったのは性格が変わったからですか?
認知症では、行動や心理面の症状が現れることがあります。これらは接し方や環境によって和らげられる場合があるとされています。
症状の仕組みは 認知症とは?4つの種類・症状の仕組み・接し方の基本 で解説しています。急激な変化がある場合は、別の原因も考えられるため受診してください。
きつく当たってしまいました
誰にでも起こりうることです。自分を責める前に、休息が足りていないかを見てください。
繰り返してしまう、抑えられないと感じる場合は、限界のサインです。地域包括支援センターに相談してください。相談することは、親を守ることでもあります。
遠方に住んでいて、電話でのやりとりが中心です
電話では表情や身振りが使えないため、短く・具体的にがより重要になります。用件は一度にひとつだけにしてください。
遠距離での関わり方は 遠距離介護のコツ をご覧ください。
まとめ
- 「本人には自覚がない」は大きな間違い。最初に気づくのは本人(厚生労働省)
- 「私は忘れていない」は、自分の心を守るための自衛反応
- 接し方の基本は具体的に/急がせない/責めない/その人らしさ/自尊心/感情
- とくに「また忘れたの?」「さっき言ったでしょ」は本人を傷つける
- 認知症の人は「杖」の使い方を覚えられない。だから周囲が「人間杖」になる
- 「認知症の人」がいるのではなく、その人が認知症という病気になっただけ
- 7つ目のポイントは「まずは自分を大切にする」
接し方の技術を学ぶことは大切です。ただ、それ以上に効くのは本人の心を理解することかもしれません。
誰よりも不安で、苦しくて、悲しいのは本人だ——この一点を知っているだけで、同じ場面でも出てくる言葉が変わります。
参考にした主な資料
- 認知症の人と接するときの心がまえ|厚生労働省(出典:認知症サポーター養成講座標準教材)
- 認知症の方と関わるとき~大切な7つのポイント~|国立長寿医療研究センター
- 認知症施策|厚生労働省
※本記事は公開されている情報をもとに整理した一般的な解説であり、診断・治療の代わりになるものではありません。症状や対応にお困りの場合は、主治医・かかりつけ医または地域包括支援センター等の専門機関にご相談ください。