認知症とトイレの失敗|「間に合わない」原因とおむつを嫌がるとき
排泄の失敗は、介護のなかで最も語られにくい悩みです。
人に相談しづらく、本人の尊厳にも関わる。片づける家族の負担も大きい。そして「そろそろおむつか」と考え始める——。
ただ、その前に確認したいことがあります。
「間に合わない」の原因は、膀胱とは限りません。
国立長寿医療研究センターは、尿失禁のひとつとして機能性尿失禁を挙げ、こう説明しています。
「尿を出す機能も尿をためる機能もどちらも正常にもかかわらず」トイレまで間に合わない状態
「高齢で体力の低下している方、要支援・要介護者の方などに多く認められます」(国立長寿医療研究センター)
体の機能は正常なのに、間に合わない。この場合、原因は膀胱ではなくトイレまでの道のりや、そこでの動作にあります。
つまり——環境やケアの工夫で改善できる余地があるということです。
※本記事は一般的な情報の整理であり、診断・治療の代わりになるものではありません。排尿の問題は必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。
尿もれには種類がある
ひとくちに「尿もれ」といっても、原因も対処も異なります。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 腹圧性尿失禁 | 「咳やくしゃみで尿もれ」。運動時、くしゃみ、咳、笑った時など |
| 切迫性尿失禁 | 「急に我慢できないような尿意を催し、トイレに行く前に尿をもらしてしまう」。夜中に何度もトイレに起きることを伴う |
| 溢流性尿失禁 | 「尿意がなく無意識にもれる」。睡眠時のおねしょとして自覚されることも |
| 機能性尿失禁 | 機能は正常なのにトイレまで間に合わない。要支援・要介護者に多い |
| 排尿後尿滴下 | 排尿後も尿道に尿が残っているために起こる。男性に多い |
切迫性尿失禁の背景にある過活動膀胱については、「40歳以上の8人に1人がこの病気に悩まされている」とされています。原因として脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患、男性では前立腺肥大症などが挙げられています。
【受診を】放置してはいけないもの
特に注意が必要なのが溢流性尿失禁です。
「この状態を放置すると、腎臓の機能障害を招く可能性があります。泌尿器科への早めの受診をお勧めします」(国立長寿医療研究センター)
男性では前立腺肥大症による尿閉から腎臓の機能に影響が及ぶことがあると指摘されています。
「尿意を感じていないのに濡れている」は、様子を見てよい状態ではありません。
急な変化も受診のサイン
それまでできていた排泄が急にできなくなった場合、尿路の感染や身体の不調が背景にあることがあります。
また当サイトで扱ったとおり、便秘や尿が出ない状態は、夜間の落ち着かなさを悪化させる要因としても挙げられています(認知症で夜眠らない・夜間に落ち着かないとき)。
排泄の問題は、排泄だけの問題にとどまりません。
【重要】薬が認知機能に影響することがある
知っておくべき指摘があります。
「総抗コリン負荷が問題となっており、抗コリン系薬剤は認知機能低下やせん妄などを引き起こす可能性が指摘されている」(国立長寿医療研究センター)
排尿の症状に対して使われる薬のなかには、このタイプのものがあります。
ただし、自己判断で薬をやめさせないでください。中止によって別の問題が生じることがあります。
やるべきことは主治医に相談することです。「排尿の薬を飲み始めてから、ぼんやりすることが増えた気がする」と伝えてください。お薬手帳を持参し、複数の医療機関にかかっている場合はすべての薬を見てもらってください。
環境で解決できること
機能性尿失禁——機能は正常なのに間に合わない場合、次のような点を確認してください。
たどり着けているか
- トイレまでの距離——寝室から遠くないか
- 夜間の照明——暗くて動けない、転ぶのが怖くて動かない
- 通り道の物——つまずくものがないか
- 手すり——立ち上がりと移動を支えられるか
夜間にトイレへ向かう経路は、転倒が最も起きやすい場所でもあります(高齢者が家で転ぶ場所1位は「居室・寝室」)。足元灯と手すりは、排泄と転倒の両方に効きます。
トイレだと分かるか
認知症があると、ドアがトイレだと認識できないことがあります。
- 扉を開けておく——中が見えれば分かることがあります
- 目印をつける——文字や絵で示す
- 夜は明かりをつけておく
間に合う服装か
ボタン、ベルト、きついゴム——脱ぐのに時間がかかる服は、それだけで失敗の原因になります。
着脱しやすい衣類に変えるだけで改善することがあります。
設備を変える
トイレの手すり設置、段差の解消、扉の取り替えは介護保険の住宅改修(上限20万円)の対象です。工事前の申請が必須な点にご注意ください。
ポータブルトイレは特定福祉用具の購入の対象になります(介護用品・サービスの選び方)。
おむつを嫌がるとき
おむつへの抵抗は、多くの場合尊厳の問題です。「そこまで落ちたのか」と感じさせてしまうことが、拒否につながります。
いきなり最終段階に進まない
排泄の用具には段階があります(在宅介護の食事・入浴・排泄の基本)。
- トイレへの誘導——時間を決めて声をかける
- ポータブルトイレ——夜間だけ使う、という選択もあります
- 吸収パッド・リハビリパンツ——見た目が下着に近いもの
- おむつ
「夜だけ」「外出時だけ」から始めるほうが受け入れられやすくなります。
言い方を変える
「おむつ」という言葉自体が抵抗を生むことがあります。「パンツ」「安心用の下着」といった表現に変えるだけで、受け止め方が変わることがあります。
接し方の基本は 認知症の親への接し方 と共通です。自尊心を守ることが、結果的に協力を得やすくします。
失敗を責めない
汚れた下着を隠す、失敗を認めない——これらは本人が恥ずかしいと感じている証拠です。
責めれば隠し方が巧妙になるだけで、状況は改善しません。気づかないふりをして片づけるほうが、結果的にうまくいくことがあります。
とはいえ、これを続ける家族の負担は小さくありません。ひとりで抱え込まないでください。
家族の負担を軽くする
国立長寿医療研究センターも、下部尿路機能障害が「患者のみならず家族や介護者の負担を増大させる」と明記しています。
使える手段があります。
- 訪問介護——排泄介助は身体介護に含まれます(訪問介護でできること・できないこと)
- おむつ代の助成——自治体によって制度があります
- 医療費控除——医師の「おむつ使用証明書」があれば対象になります(介護の医療費控除)
- 多職種での評価——医師・看護師・リハビリ職が関わることで改善する場合があります
夜間の排泄介助が続いている状態は、在宅介護の限界サインのひとつです(在宅介護とは?使える6つのサービスと限界の見極め方)。我慢の期間を延ばすほど、選択肢は狭くなります。
よくある質問
水分を控えさせたほうがよいですか?
自己判断で水分を制限しないでください。高齢者は脱水になりやすく、体調の悪化や別のトラブルにつながることがあります。
水分の取り方について不安がある場合は、主治医に相談してください。
夜間だけ失敗します
夜間は暗く、判断力も落ちます。足元灯、ポータブルトイレ、寝室からトイレへの動線を見直してください。
また夜中に何度もトイレに起きるのは、切迫性尿失禁の特徴としても挙げられています。回数が多い場合は受診を検討してください。
紙パンツとおむつ、どちらを選べばよいですか?
自立の度合いによって変わります。タイプ・吸収量・サイズの選び方は 介護用品・サービスの選び方 で整理しています。
迷う場合はケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してください。合わないものを使うと、漏れて失敗が増えることがあります。
本人が「トイレに行った」と言い張ります
事実を突きつけても解決しません。「念のため一緒に行こう」と誘う、時間を決めて声をかけるといった方法があります。
介護する側がつらくなってきました
排泄の介助は、心身ともに負担が大きい領域です。それを苦痛に感じるのは自然なことです。
訪問介護やショートステイの利用を含め、介護疲れ・介護うつを防ぐには をご覧ください。
受診は何科ですか?
排尿の問題は泌尿器科が専門です。まずかかりつけ医に相談し、必要に応じて紹介してもらう流れが一般的です。
認知症の症状全般については もの忘れ外来の受診 をご覧ください。
まとめ
- 機能性尿失禁——「尿を出す機能も尿をためる機能もどちらも正常にもかかわらず」間に合わない。要支援・要介護者に多い
- つまり環境やケアの工夫で改善できる余地がある
- 溢流性尿失禁(尿意がなく無意識にもれる)は放置すると腎臓の機能障害を招く可能性。早めの受診を
- 過活動膀胱は40歳以上の8人に1人
- 抗コリン系薬剤は認知機能低下やせん妄を引き起こす可能性が指摘されている。自己判断で中止せず主治医に相談
- 環境の確認点は距離・照明・通り道・手すり・トイレだと分かるか・脱ぎやすい服か
- おむつはいきなり最終段階に進まない。夜だけ・外出時だけから
- 失敗を責めない。隠すのは恥ずかしいと感じている証拠
- おむつ代は自治体助成や医療費控除(おむつ使用証明書)の対象になりうる
排泄の失敗を「認知症が進んだから」と受け止めてしまうと、そこで対策が止まります。
しかし実際には——トイレが遠い、暗い、服が脱ぎにくい、薬が合っていない。変えられる要因が、いくつも隠れています。
参考にした主な資料
- “会議前の尿もれ”と”会議後の尿もれ” 尿もれの原因は?|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- 認知症施策|厚生労働省
※本記事は公開されている情報をもとに整理した一般的な解説であり、診断・治療の代わりになるものではありません。排尿の問題、薬の影響については、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。