高齢の親が食べない|原因と対応・むせるときに確認したいこと
「食べてくれない」——介護の相談で、非常に多い悩みです。
作った食事に手をつけない。少し食べてやめてしまう。あるいは、さっき食べたばかりなのに「まだ食べていない」と言う。
食事は毎日3回訪れます。そのたびに困るということは、1日3回消耗するということです。
ここで、まず知っておいてほしいことがあります。
食べない背景に、病気が隠れていることがあります。
「わがまま」でも「認知症だから」でもない可能性を、最初に確認してください。
※本記事は一般的な情報の整理であり、診断・治療の代わりになるものではありません。食事量の低下や飲み込みの問題は、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。
食欲が落ちる原因は、ひとつではない
国立長寿医療研究センターは、高齢者の食欲低下の原因を大きく2つに分けています。
器質的疾患——病気が原因の場合
「胃癌、膵癌などの悪性疾患、胃・十二指腸潰瘍、慢性膵炎、肝硬変などの良性疾患」(国立長寿医療研究センター)
食欲低下が、重い病気の最初のサインであることがあります。
高齢者は痛みや不調を訴えないことがあり、認知症があればなおさらです。「最近食べない」が唯一の症状ということもありえます。
機能的な変化——加齢にともなうもの
- 「飲み込む能力(嚥下機能)が低下して、1回の食事量が減少」
- 「味やにおいを感じることが弱くなること」
- 家にこもりがちになることによる運動不足や必要エネルギー量の減少
- 「消化吸収を司る臓器、特に胃腸の機能が加齢により低下」
- ストレスによる消化管運動異常や内臓の知覚過敏
「味を感じにくくなっている」という視点は見落とされがちです。同じ味付けでは物足りず、食が進まないことがあります。
放置するとどうなるか
ここが最も重要な部分です。
「食欲不振が持続することを放置して低栄養状態となったために、体重減少をきたしていることが考えられます。さらに進行すると、筋肉をつくるタンパク質が不足するためにサルコペニア(筋肉がやせること)を合併して歩行などが困難になって転倒して足を骨折したり、脳に行くエネルギーが不足して認知症となることもあります」(国立長寿医療研究センター)
連鎖が明確に示されています。
| 食欲不振の持続 |
| ↓ |
| 低栄養状態・体重減少 |
| ↓ |
| サルコペニア(筋肉がやせる) |
| ↓ |
| 歩行困難・転倒・骨折 |
当サイトで扱った 転倒予防 と、この記事はつながっています。転倒対策は、床の片づけだけではありません。食べられているかどうかも、転倒に関わります。
体重を定期的に測ってください。「なんとなく食べていない」より「3か月で3キロ減った」のほうが、医師に伝わります。
【やってはいけない】怒る・強制する
家族が良かれと思ってやりがちなことに、明確な注意があります。
「一緒に会話しながら食卓を囲んで、食べないことに対して怒ったり、食べることを強制するのは控えましょう」(国立長寿医療研究センター)
「もっと食べて」「せっかく作ったのに」は逆効果ということです。
食事が緊張の場になれば、さらに食が進まなくなります。接し方の基本は 認知症の親への接し方 と共通しています。
示されている工夫
- 「少しずつ食べられる量のみ盛り付けして、小出しにしてだす」——山盛りの皿は、それだけで食欲を削ぎます
- 「お好きな物を中心に献立を考える」——栄養バランスより、まず食べられることを優先する場面があります
- 「食べやすい物、柔らかい物(ゼリーなど)」
- 総合栄養食品を栄養補助として考慮する
「一緒に会話しながら食卓を囲む」ことも挙げられています。ひとりで食べるより、誰かと食べるほうが食は進みます。デイサービスでは食事の時間も含まれるため、そこで食べられているかを確認してみてください。
【最重要】むせる・詰まらせる
食べない以上に緊急性が高いのが、飲み込みの問題です。
東京消防庁の令和6年のデータでは、高齢者の「ものがつまる等」の事故で1,565人が救急搬送されています。件数だけ見れば「ころぶ」より少ないのですが、深刻さが違います。
「ものがつまる等」は「5割以上の高齢者が入院の必要がある中等症以上と診断され、379人が生命の危険がある重症以上と診断」
また9割以上が「住宅等居住場所」で発生(東京消防庁)
半数以上が入院、379人が生命の危険。しかも9割以上が自宅で起きています。
むせが増えたら、専門職に相談を
飲み込みの機能が落ちているサインには、次のようなものがあります。
- 食事中や食後にむせる・咳き込む
- 食後に声がかすれる
- 飲み込むのに時間がかかる、口の中に食べ物が残る
- 発熱を繰り返す
- 食事の量が減った、食べるのに疲れる
食事の形態(きざみ・とろみなど)は、自己判断で決めないでください。状態に合わない形態は、かえって危険になることがあります。
医師のほか、言語聴覚士などの専門職が関わります。ケアマネジャーに相談すれば、評価を受けられる体制につないでもらえます。食事介助の基本は 在宅介護の食事・入浴・排泄の基本 で扱っています。
「さっき食べたのに」と言われたら
認知症では、食べたこと自体の記憶が残らないことがあります。
ここで「さっき食べたでしょう」と事実を突きつけても、本人には身に覚えがありません。否定されたという感情だけが残り、関係が悪くなります。
対応の例です。
- 「今準備しているところ」と伝えて、間を置く
- 少量を用意する——お茶や果物など、負担の少ないもの
- 別のことに関心を向ける
- 食事の時間を分散する——1回の量を減らして回数を増やす
ただし、頻度が高い、体重が増えすぎている、持病の管理に影響が出ているといった場合は、主治医にご相談ください。糖尿病などがある場合は自己判断が危険です。
食べられないものを口に入れるとき
ティッシュや石けんなど、食べ物でないものを口に入れることがあります。
危険なものは手の届かないところに移すのが基本的な対応になりますが、行動には理由があることが多く、環境や体調の影響も考えられます。
誤飲は生命に関わります。気づいた時点で、主治医またはかかりつけ医に相談してください。実際に飲み込んでしまった場合は、ためらわずに医療機関へ連絡してください。
よくある質問
栄養バランスが心配です
食事量が落ちている段階では、まず食べられることが優先される場面があります。「お好きな物を中心に」という助言も、その趣旨です。
持病がある場合は制限が必要なこともあるため、かかりつけ医や管理栄養士に相談してください。介護保険では居宅療養管理指導として、栄養の専門職の助言を受けられる場合があります。
体重はどのくらい減ったら受診すべきですか?
明確な線引きは状況によりますが、「以前より明らかに減った」と感じた時点で相談してよいと考えてください。
重要なのは記録しておくことです。いつから、どれくらい減ったかが分かると、医師の判断材料になります。
薬を飲んでくれません
服薬の管理は、もの忘れ外来の受診をすすめる目安のひとつにも挙げられています(もの忘れ外来の受診)。
飲めていないことは、必ず主治医と薬剤師に伝えてください。剤形の変更(粉・液体・貼り薬など)や、回数をまとめる調整ができる場合があります。
ひとり暮らしで、食事の状況が分かりません
冷蔵庫の中身、ゴミの量、賞味期限切れの食品——これらが手がかりになります(親の物忘れが増えたと感じたら)。
配食サービスを使えば、食事の提供と同時に安否確認にもなります(介護用品・サービスの選び方)。
食事の準備が負担です
毎日3回、拒まれながら作り続けるのは、大きな消耗です。
配食サービス、デイサービスでの食事、訪問介護での調理など、外部に任せられる部分があります。抱え込まないでください(介護疲れ・介護うつを防ぐには)。
急に食べなくなりました
急な変化は受診してください。体調の悪化、口の中の痛み、薬の影響など、原因がある可能性があります。
認知症がある場合、体調不良が行動の変化として現れることがあります(認知症で夜眠らない・夜間に落ち着かないとき)。
まとめ
- 食欲低下の背景に悪性疾患などの器質的疾患が隠れていることがある
- 味やにおいを感じにくくなる、嚥下機能の低下なども原因になる
- 放置すると低栄養→サルコペニア→転倒・骨折につながる(国立長寿医療研究センター)
- 「食べないことに対して怒ったり、食べることを強制するのは控えましょう」
- 工夫は少量を小出し・好きな物中心・柔らかい物・栄養補助食品・一緒に食卓を囲む
- 「ものがつまる等」は5割以上が中等症以上、379人が重症以上(東京消防庁)
- 食事の形態は自己判断で決めない。専門職の評価を受ける
- 「さっき食べた」と言われても事実を突きつけない
食べないことに向き合っていると、「自分の作るものが悪いのか」と考えてしまう方がいます。
しかし原因の多くは、作る側ではなく、本人の体の中にあります。まずは受診で確かめてください。
参考にした主な資料
※本記事は公開されている情報をもとに整理した一般的な解説であり、診断・治療の代わりになるものではありません。食事量の低下、体重減少、飲み込みの問題については、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。