在宅介護でいちばん人を消耗させるのは、夜です。

何度も起きる。外に出ようとする。大声を出す。そのたびに家族も起きる——これが毎晩続けば、どんな人でも限界がきます。

日中の介護は工夫のしようがありますが、睡眠を削られることだけは、代わりがききません。

この記事では、まず受診すべきサインを確認し、そのうえで夜間に使えるサービスと、家族の睡眠を守る方法を整理します。

※本記事は一般的な情報の整理であり、診断・治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。

【最初に確認】急に始まったなら、受診を

夜の症状がここ数日で急に始まったのであれば、認知症の進行とは別の可能性があります。

国立長寿医療研究センターは、認知症とせん妄の違いをこう説明しています。

「認知症とせん妄の最も大きな違いは、発症が急激で、数日単位で変化することであり、反応が鈍い状態から激しい興奮状態まで症状が変動することである」(国立長寿医療研究センター)

そして、家族にとって重要なのが次の一文です。引用中の「BPSD」とは、認知症にともなって現れる行動・心理症状のことです(認知症とは?4つの種類・症状の仕組み)。

「認知症のBPSDの出現に比して、原因がはっきりしていることが多く、特に身体状態の変化や薬物の影響との時間的関連が分かりやすいことが多いのも特徴である」(国立長寿医療研究センター)

原因がある、ということは、その原因に対処できる可能性があるということです。

認知症の症状 せん妄
始まり方 徐々に 急激
変化 ゆるやか 数日単位で変化する
状態 比較的一定 鈍い状態から激しい興奮まで変動する
原因 身体状態の変化や薬物との関連が分かりやすい

直接のきっかけとなるものとして「身体疾患、薬剤、手術など」が挙げられており、改善のためには「原因となっている身体疾患や薬剤に対するアプローチが必要」とされています。

「認知症だから仕方ない」と判断せず、主治医に相談してください。特に新しい薬を飲み始めた、体調を崩した、入院した——といった変化があるなら、必ず伝えてください。

※せん妄かどうかの判断は医師が行うものです。この記事は受診の目安をお伝えするものであり、自己判断のためのものではありません。

悪化させる要因は、取り除けるものが多い

症状を誘発したり悪化させたりする要因として、次のものが挙げられています。

分類 具体例
身体的要因 疼痛(痛み)・便秘・尿閉・不動化・拘束・視力低下・聴力低下
精神的要因 不安・抑うつ
環境変化 入院・明るさ・騒音
睡眠 不眠・睡眠関連障害

そして、こう書かれています。

「これらは、準備因子とは異なり、個々に介入可能なものが多く、可能な限り各因子の除去に努めることが重要である」(国立長寿医療研究センター)

介入可能——つまり、手が打てるということです。

家族が確認できること

並んでいる要因を見ると、家族が気づける項目が多いことに気づきます。

  • 便秘していないか——何日出ていないか把握できていますか
  • 尿が出ているか——出にくそうにしていないか
  • どこか痛くないか——本人が訴えられないことがあります
  • 眼鏡・補聴器を使えているか——見えない・聞こえないは不安に直結します
  • 夜の明るさと音——暗すぎても明るすぎても落ち着きません

「痛み」「便秘」「尿が出ない」が原因で夜間に落ち着かなくなることがある——これは知らなければ思いつきません。本人が言葉で訴えられない場合、行動として現れます。

気づいたことは、主治医やケアマネジャーに具体的に伝えてください。「夜落ち着かない」より「3日便が出ていなくて、その頃から夜起きるようになった」のほうが、はるかに役に立ちます。

夜間に来てもらえるサービスがある

ここからが実務です。介護保険には、夜間に対応するサービスがあります。

訪問介護やデイサービスは知られていても、この2つは知られていません。

夜間対応型訪問介護

「利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を、24時間安心して送ることができるよう、夜間帯に訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問します」(WAM NET)

提供されるのは次の3つです。

  • 定期的な巡回による訪問介護サービス
  • 利用者の求めに応じた随時の訪問介護サービス
  • 利用者の通報に応じて調整・対応するオペレーションサービス

具体的には——

「夜間帯に定期的な訪問で排泄の介助や安否確認が受けられ、またベッドから転落した時や夜間に体調が悪くなった時などに訪問介護員を呼んで介助を受けることができます」(WAM NET)

「夜中に転倒したらどうしよう」という不安に、直接応えるサービスです。

定期巡回・随時対応型訪問介護看護

もうひとつ、日中と夜間を通して対応するサービスがあります。

「定期巡回訪問、または、随時通報を受け利用者の居宅を介護福祉士等が訪問し、入浴・排せつ・食事等の介護、調理・洗濯・掃除等の家事等を行うとともに、看護師等による療養上の世話や診療の補助を行うもの」(WAM NET)

介護と看護の両方が組み合わさっている点が特徴です。医療的なケアが必要な場合はこちらが選択肢になります(訪問看護とは?)。

利用するには

どちらも地域密着型サービスのため、次の点にご注意ください。

  • お住まいの市区町村にある事業所しか利用できません
  • 地域によっては事業所がないことがあります
  • 利用には要介護認定とケアプランへの位置づけが必要です

まずはケアマネジャーに「夜が大変です」と伝えてください。言わなければ、プランには入りません。

家族の睡眠を守るという発想

夜間サービスを使っても、家族が完全に眠れるとは限りません。そのときに考えるべきは、離れる時間をつくることです。

ショートステイで、まとめて眠る

ショートステイは、家族の休息(レスパイト)のために使ってよいサービスです。数日でも連続して眠れることの回復効果は、想像以上です。

「自分が休むために親を預けるなんて」と感じる方は多いのですが、介護者が倒れれば在宅介護そのものが終わります。

国立長寿医療研究センターのマニュアルにも、医療側が家族に対して行う支援として、こう書かれています。

「入院したことをきっかけに、家族の心身の休息をとる時間を確保する」(国立長寿医療研究センター)

家族が休むことは、専門職の側でも支援の対象として位置づけられています。遠慮する必要はありません。

夜間の対応が続くことは、限界のサイン

当サイトでは 在宅介護の限界の見極め方 で、限界サインのひとつとして夜間対応を挙げています。

これは施設入所を勧めるためではなく、睡眠が削られる状態は長く続けられないという事実の確認です。

「まだ頑張れる」と思っているうちに手を打つほうが、選択肢が多く残ります(介護疲れ・介護うつを防ぐには)。

よくある質問

昼夜逆転しています

日中の活動量や光を浴びる時間が影響することがあります。デイサービスの利用で日中の生活リズムが整い、夜の様子が変わることがあります。

ただし急に始まった昼夜逆転は、身体状態の変化や薬の影響も考えられます。主治医にご相談ください。

夕方になると落ち着かなくなります

夕方から夜にかけて不安定になることがあるとされています。暗くなる時間帯は、視覚的な情報が減って不安が強まりやすいと考えられます。

照明を早めにつける、そばにいて声をかけるなど、環境面での工夫が助けになる場合があります(認知症の親への接し方)。

睡眠薬を使ってもよいですか?

必ず医師に相談してください。高齢者では薬の影響が出やすく、転倒のリスクもあります。

先に見たとおり、薬剤そのものが症状の直接のきっかけになることもあるとされています。市販薬を自己判断で使うことは避けてください。

入院してから急におかしくなりました

環境変化は要因のひとつとして挙げられています。入院中に生じた変化は、必ず病棟の看護師や主治医に伝えてください。

入院時の対応は 親が倒れたらすぐやること でも扱っています。

夜中に外に出ようとします

安全に関わるため、早めに専門職に相談してください。玄関の施錠方法、センサーの活用、地域の見守りネットワークなど、地域ごとに使える仕組みがあります。

地域包括支援センターが相談先です。

夜間サービスの事業所が近くにありません

地域密着型サービスは事業所数に地域差があります。ケアマネジャーに、地域で使える選択肢を確認してください。

通常の訪問介護でも早朝・夜間の対応が可能な場合があります(訪問介護でできること・できないこと)。

自分が眠れなくなってきました

それは限界が近いサインです。介護者自身の不調は、我慢して解決するものではありません。

眠れない状態が続く場合は、ご自身が医療機関を受診してください。相談先は 介護疲れ・介護うつを防ぐには にまとめています。

まとめ

  • 急に始まった夜の症状は、認知症の進行とは別の可能性がある
  • せん妄は発症が急激で、数日単位で変化し、症状が変動する(国立長寿医療研究センター)
  • 身体状態の変化や薬物との時間的関連が分かりやすいとされる。主治医に伝える
  • 悪化要因には痛み・便秘・尿閉・視力聴力の低下・明るさ・騒音などがあり、介入可能なものが多い
  • 夜間対応型訪問介護——夜間の定期巡回、随時の訪問、通報への対応
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護——日中・夜間を通じた介護と看護
  • どちらも地域密着型のため、住んでいる市区町村の事業所に限られる
  • 家族の休息は、専門職の側でも支援の対象とされている

夜が大変だと言えないまま、耐えている家族は多いはずです。しかし言わなければ、ケアプランには入りません。

そして——原因があるなら、対処できるかもしれません。まずは「いつから、どう変わったか」を主治医に伝えるところからです。

参考にした主な資料

※本記事は公開されている情報をもとに整理した一般的な解説であり、診断・治療の代わりになるものではありません。症状の判断は医師が行うものです。気になる変化がある場合は、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。